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逃避は症状を作ることがある-神経症の発生と克服



逃避への衝動

「現実に直面することから逃げたい」、「自分自身の問題から逃避したい」という衝動は、しばしば襲ってくる強い感情です。でも、逃避は人生の問題を消してはくれません。むしろもっともっと不快な症状を招き寄せます。私の経験では「自分の本当の問題」と向き合うまで、その症状は続きます。

回避性パーソナリティ障害のみならず、さまざまなパーソナリティ障害の奥には、自分の一番核となる問題から逃げたい、目を背けたいという誘惑や衝動があります。この誘惑と衝動に打ち勝って、怖くても自分自身と向き合い対決すると決断した時に、初めて次の段階に進むことができるように感じます。

ユングの経験に学ぶ

この問題を分析心理学の創始者カール・グスタフ・ユングの少年時代の経験を通して学びたいと思います。

ユング少年は、小さいころ苦手で嫌な学科が3つありました。代数はまったく頭脳がうけつけませんでした。体育は苦手で嫌いでした。図画は写生が全くできなくて、教師から見放されていました。だから学校の勉強が苦痛だったようです。

そんなユング12歳の時です。朝の授業が終わり、お昼に一緒に帰るために牧師である父親の管理している教会大聖堂の広場に立っていたユングを、一人の少年が突き倒しました。

少年ユングは一突きされて足を滑らせて、舗道のふちの石でしたたか頭を打って倒れ、ほとんど意識を失わんばかりになりました。その瞬間、「もうお前は学校へ行かなくてもよい」という考えが、自分の心にひらめいたのを感じました。

それ以来、学校の帰り道とか、両親がユング少年に宿題をさせようとするときはいつでも、突然意識を失うという発作を起こすようになりました。この発作のおかげで半年以上、ユングは学校を休みました。病気の理由による不登校が認められたのです。

彼にとっては毎日が楽しいピクニックになって、数時間夢想にふけったり、森や川などを歩き回ったり、漫画を描いて過ごしていました。

人は病気で学校や職場に行かない時、体に特別な苦痛を感じている時は別ですが、そうでなければゆっくりと好きなことをできることにほっとした気持ちを味わいます。しかし、それが続くと、後ろめたさや罪悪感や焦りが湧いてくるものだと思います。

学校に行かなくて好きなことをしているユングも、自分を叱責する内心の声を聴いていました。

「私はますます世間から離れていったが、その間ずっとかすかな良心の呵責にせめられた。私はぶらぶらしたり、物を集めたり、本を読んだり、遊んだりして、つまらないことに時間を費やして過ごした。けれども、私はそれを少しも幸せには感じなかった。私は自分が、私自身から逃げていると漠然と感じ出していた。」(ユングの『自伝』より)

そんなユングに、決定的な転機が訪れ、厳しい現実と直面させられる機会がきました。父親の友人が来訪し、父と友人の二人が庭で腰かけていた際に、飽くことを知らぬ好奇心を持っていたユングは、興味津々その二人の話を盗み聞くために茂みの陰にかくれました。そこでユングは大変なことを耳にしました。
客人は父親に、「ところで息子さんはどうですか」と尋ねました。
「ああ、悲しいことです」』と父親が答えました。「医師たちは何処がわるいのか分からないのです。彼らはてんかんかもしれないと考えている様子です。もし治らないのなら恐ろしいことです。私はなけなしのものを全部なくしてしまった。それに、もし自分で生計を立てることができないとすれば、あいつは一体どうなるんでしょう。」

「私はびっくり仰天した。ここで私は現実とぶつかったのだ。『じゃあ、働くようにならなくちゃ』とふいに私はそう考えたのである。」(ユングの『自伝』より)

少年のユングはその衝撃で、一瞬にして考えが変わりました。そして意識を失う症状(神経症)と向き合い、闘いだしたのです。

ユングはこっそりと庭の茂みから出ていって、父親の書斎に行き、ラテン語の文法書を取り出して、一心不乱に詰め込みはじめました。十分間勉強したあと、ユングは最もきつい発作を起こします。ユングは意識を失いかけてもう少しで椅子から転がり落ちるところでしたが、踏ん張ります。二、三分たつと気分がよくなり勉強を続けることができました。

「こん畜生! 発作なんか起こすもんか。」
ユングは独り言をいって勉強を続けました。

今度は二回目の発作が起こるまでに、十五分かかりました。それも一回目と同じようにやりすごしました。
「さあ、本当にお前は働くようにならなければならないのだ!」
ユングの心が、彼にこう命じるのを聞きました。

ユングは我慢し続け勉強したところ、一時間後に三回目の発作が起こりました。それでもなおユングはあきらめず、もう一時間勉強し、発作の来襲をのり越えたと感じるまで続けたのです。

ふいに、それまでよりもずっと気分がよくなりました。その後は、発作は二度と起こらなくなりました。

その日以来ずっと、ユングは文法書と他の学校の本を真に日勉強して過ごしました。二、三週間後にユングは学校にもどり、そこでも二度と発作に襲われることはなかったのです。

現実から目を背ける代償

ユングは「神経症とは何かを私が教わったのは、その時だった。」と『自伝』のなかで回想しています。

ユングは、発作を起こして学校を休む口実を作っていたのは、実は自分の「心の策略」だったと自覚したのです。学校で嫌な思いをしないために、友だちに突き倒されて頭を打った瞬間に、「『もうお前は学校へ行かなくてもよい』という考えが、自分の心にひらめいたのを感じ」たユングは、この神経症は現実から逃避するための「心の策略」に過ぎないとわかっていたのです。だからこそ、現実から逃げないことを決意し、発作をこらえてラテン語の文法書に向かい続けたときに、三回目の発作を乗り越えた後、神経症は消えました。

私たちは、さまざまな心身の症状を訴え悩み、医者にかかっても原因が分からないことがあります。その時に、心に問いかけてみる必要があるのです。

「これは自分の現実と向き合うことから回避するための『心の策略』ではないか。この症状が続く方が好ましい事情があって、いつまでも症状が消えないのではないのか。現実と向き合い対決しないで逃げている自分がいるのではないか。」

苦しい症状より、「現実」と向き合う方がもっとつらいという気持ちに襲われることはあります。しかし、それを乗り越えないと、心の成長が止まります。これが現実から目を背ける代償です。

症状の苦しみは、成長が止まっていることへの警告でもあるといえます。この警告に耳を傾けて、現実に向き合った時、私たちは再び成長を始めることができるように思います。

(参考書籍)『ユング自伝1-思い出・夢・思想-』ヤッフェ編、河合隼雄他訳 みすず書房)

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1.決して珍しくない症状



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そのために境界性パーソナリティ障害では、本人の苦しみが激しいだけでなく、家族やその周囲の人が振り回されてへとへとになっていくことが少なくありません。


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このタイプの人は、心の深いところで母親や父親の代理を相手に求めています。ですからその欲求を満たしてくれる人に出会うと、どんどん依存を深めていきます。

さらに境界性パーソナリティ障害をもつこのタイプの人は往々にして恋愛感情に入っていきやすいので、理想の相手に見えて恋心に火がつくことも少なくありません。しかし、これはこの人の中にある理想の父親もしくは母親の投影として、理想の恋人に見えているのであって、本当の恋心とはいえません。


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些細なきっかけで、その人の何らかの要求が満たされないと、評価が180度逆転して、罵詈雑言を浴びせることもありがちです。そして「最低!」「信じて損した」「私の時間を返してよ」という具合に、激しい言葉を浴びせるのです。言葉だけでなく、行為で迷惑をかけることもあり、相手は翻弄されていくことになります。
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