スキップしてメイン コンテンツに移動

境界性パーソナリティ障害を支えるために⑭ 問題解決のための戦略



(境界性パーソナリティ障害の人を支える人々に必要な、知っておくべき向き合い方の原則を紹介しています。今回紹介するのは「問題解決戦略」です。)

1.本当の原因ときっかけの区別を

アメリカの精神科医で境界性パーソナリティ障害に効果が高い治療法である「弁証的行動療法」を生み出したリネハン博士は、「問題解決戦略」を柱に立てました。これは「認証戦略」と並ぶ重要な柱です。

まずリネハン博士が着目したのは、境界性パーソナリティ障害の人は「本当の問題」と、「きっかけに過ぎない問題」を取り違えているということです。

一例ですが、「彼にメールを送ったのに、一日待っても返事がなかった。だから彼とは終わりであり、もう自殺するしかない」。そう思いこんでパニックになって怒りをぶつけている女性がいるとします。

確かに彼からメールが来ないことが、問題の発端です。彼女はそれが原因だと信じています。でもそれはきっかけに過ぎないのです。

というのも問題には二種類あるからです。一つは、目の前に生じたトラブルであり、不愉快でストレスになる出来事です。こうした問題は、常に発生します。誰もがそれに遭遇しています。でも普通は彼女のようにはなりません。

もう一つは、そうした問題が発生した時に、どう受け止めて、どう対処するかという問題です。本当の問題は、こちらにあります。本当に問題なのは、受け止め方でありそれへの対処の仕方です。

目先のことや、目の前のこまごました相手の対応が問題だとしている限りは、決して本質的な解決はできません。なぜなら本当の問題はもっと別のところ、つまり本人の受け止め方と対処の仕方にこそ、問題の本質があるからです。そこに目を向けて改善しない限りは、決して事態がよくならないのです。

トラブルが起きても、それに対して最適な解決方法を選択して、行うことができるようになれば、トラブルが起きること自体は問題ではないことが分かるようになります。問題は、トラブルに対する受け止め方対処の仕方だからです

境界性パーソナリティ障害の人は、往々にして、トラブルを過度に悲観的に受け止めて、自分が生きる価値のない人間である証拠とみなしてしまいます。こうした自己否定的な認知は、このタイプの人に共通して見られます。


2.悪い反応のパターンを見つける

受け止め方と、処置の仕方に問題があることを理解できれば、次はどういう悪い反応のパターンがあるかを自覚することです。それぞれ特有の癖を持っていますので、それを発見します。本当の問題は、その癖と密接に関係しています
その癖の問題を自覚して、修正できれば、本人はすごく楽になっていきます。

カッとなって暴言を吐く・・・。その怒りは、今までの関係を全部断ち切るほどの強い怒りであることは、境界性パーソナリティ障害を持つ人にはよくあることです。

そこで、この方の周囲の方には、次のような対応をお願いしたいと思います。冷静に平静に受け止め、同じ変わらない態度で接するのですが、その上で問題解決のためのアプローチを取ってほしいのです。

①本人に、どういう状況で、そうした反応を起こしたのかを、つぶさに思いだしてもらいます。たいていは些細なことがきっかけで、激しい怒りが発生していると思います。まず、その事実を確認してもらいます。

②次に、その出来事を、どのように受け取り、どんなふうに感じたのかを、話してもらいます。

③本人がその時話した言葉は、そのまま受け止めます。「・・・と思ったんだね」、という具合にです。

そう本人の感じたことは事実ですから、その事実を受け止めます。

決して、「それは違うよ」「それは誤解だ」と否定したり非難したりはしません。

本人がそう受け取っているという事実を、あくまで尊重し、本人が理解しているようにこちらも理解しようと努めます。「この人はこう感じている」ことは、今そこにある現実であり、その人の今の心にとっての真実であるからです。そう受け止めます。これが「受容」の段階です。

④「そんなふうに受け取ったら、確かにいやだったよね」といった仕方で、共感を伝えます。

⑤その上で、「本当に相手はそういうつもりで言ったのかな?」「ほかの可能性はないのかな?」と冷静な視点で、もう一度振り返ってもらいます。

⑥「どうしてそう受け取ったのかな?」とか「そう感じるのは何が意味があるはずだよね」など、問いかけて考えてもらいます。

⑦「今までも、そんなふうに感じて、反応してしまったことはなかった?」といった質問を投げかけながら、最近の出来事や過去の出来事を振り返っていきます。するとほかにも同じような反応をしていることが見えてきます。繰り返し繰り返し、そうした反応をしているはずです。

⑧これによって、自分が同じパターンで物事を受け止めて反応する癖があることに気づけるようになります。すると、ひょっとしたら今回の出来事も、実は別の解釈ができる可能性があったのではないか、自分の癖でそうとらえたに過ぎなくて、本当は違っている可能性があるのではないかと、別の可能性に目がいきはじめるのです。

この方法を取る際に注意することを、岡田尊司博士は次のように述べています。

気をつけることは、こちらにはパターンが見えていても、本人を飛び越えて決めつけるような態度をとらないことである。本人が自然に、自分の偏りに気づけるように、さりげなく言葉や事実をなぞったり、新しい視点のヒントを投げかけながら本人の主体性を尊重したサポートを心がける。無理強いしないでも、いずれ同じような反応パターンを繰り返していることに気づいていく。自分が過剰反応しやすい状況がどういうものであるか、自動的に湧き起こって自分をとらえてしまう思考パターンが、どういうものかを自覚し始める。

こうした取り組みは、自分の思考と感情を客観的に観察するという習慣をつけます。

爆発して荒れ狂う思考や感情に振り回されていた人が、自分の思考と感情に注意を向けて、それを観察しはじめると、次第に冷静に自分を見つめることができるようになります。

湧き起って暴れている思考や感情と、それを観察している自分というふうに、自分を二つに分けることができるようになるからです。

それだけでも、相当冷静になることができ、耐えがたい激しい感情や思考を穏やかなものにできます。

さて、問題となる一定の反応パターンのことを、専門用語では「認知の歪み」と呼んでいます。「歪み」というのは、その認知の特徴が本人や周りを害しやすい傾向があるためです。しかし私のブログでは「認知の特徴」という表現をしたいと思います。歪みかどうかは相対的な見方に過ぎないからです。次回にそれを見てゆくことにします。

<ご案内>
種村トランスパーソナル研究所ではカウンセリングを行っています。
対面のカウンセリング以外にも、電話カウンセリングやメールでのカウンセリングも受け付けています。遠慮なくご利用ください。ご連絡をお待ちしています。
電話09080518198
メールアドレスtanemura1956@gmail.com
カウンセリングルームは千葉県のJR常磐線・我孫子駅南口から徒歩10分の場所にございます。

(参考図書)

『境界性パーソナリティ障害』岡田尊司著 幻冬舎新書

コメント

このブログの人気の投稿

境界性パーソナリティ障害1…愛情飢餓の苦しみを抱えて

1.決して珍しくない症状



境界性パーソナリティ障害は、最近増えつつあるのですが、対人関係が難しいという特徴があるので、大変厄介です。リストカットを繰り返したり、自殺の企てを何度もしたり、摂食障害で拒食症や過食症に悩んだり、家庭内での親への暴力、援助交際などの性的逸脱などなど、こうした激しい行動の背景には、往々にして境界性パーソナリティ障害が潜んでいます。これに薬物への依存が加わることもあります。
そのために境界性パーソナリティ障害では、本人の苦しみが激しいだけでなく、家族やその周囲の人が振り回されてへとへとになっていくことが少なくありません。


特に境界性パーソナリティ障害への対応で難しいのは、通常の場合、その人を熱心に支えようとすればするほど、症状が悪化していくことです。親身に支えてくれる人に対して、どんどん要求をエスカレートさせたり、攻撃的で衝動的になったり、自殺の企てを繰り返すことも少なくありません。そのために親身になって支援しようとした人自身が傷つくことも多いのです。
アメリカではこの障害を持つ人は全人口の2パーセントもあり、さらに精神科外来患者の11%、入院患者では19%が境界性パーソナリティ障害の要素を持っていると言います。日本もそれに近づいてきているといわれています。



青年期に発症することが多いので、若い人の間では境界性パーソナリティ障害を持つ人は、大幅に割合が増えることになります。なかでも女性に多くみられ、80%をしめます。男性も20%を占めていて、性差がなくなっている現在では、男性が発症するケースも増える傾向があるようです。

2.見捨てられ不安と愛情飢餓

境界性パーソナリティ障害を持つ人は感情がとても不安定です。

たとえば、片時も離れたくないほどの恋人だったはずなのに、突然鬼のような怖い顔になり怒りまくる。たんなるお友達のはずなのに、夜中まで突き合せておきながら、翌日はがらっと態度が変わり激しく罵倒する、などなど・・・。

こうした極端に不安定な気持ちや言動の元にあるのは「相手に見捨てられるかもしれない」という不安です。しかも、その「不安」は、本人が思いこんでいるだけで、相手にしてみれば全く心当たりがない場合がほとんどです。そのため何を怒っているのか、見当がつきません。

境界性パーソナリティ障害の人は、大変深刻な「見捨てられ不安」をもっているのです。そのために、ささいな…

境界性パーソナリティ障害7…特徴(4)怒りのブレーキが効かない

①感情がコントロールできない

境界性パーソナリティ障害の人も私たちも、もっている感情に違いはありません。ただ違うのは、私たちより「物事を強烈に感じ、より激しい形で反応し、自分自身の感情や行動をうまくコントロールできない」ということです。
境界性パーソナリティ障害の人の怒りは激しく、予測不可能で、筋道を立てて話をしても抑えることができません。大雨の後の鉄砲水や地震や、晴れた日の雷のようなものです。現れるのと同じように、消えるのも突然です。

もう聞いているしかないほど怒りの激流となるので、相手をする人は疲れ果てて行きます。仕方がないから感情をなだめるために、境界性パーソナリティ障害の人の言うままになってコントロールされている家族があります。これは非常に多くあるケースです。この場合、家族の心の中には、出すことのできない怒りが蓄積されていくので、家庭の中の空気が非常に冷たくとげとげしいものとなりがちです。もっとも、境界性パーソナリティ障害の人の中には、自分の怒りを全く表現することができないという正反対の問題を抱えている人もいます。怒りがないのではなく、「少しでも怒りを表したらコントロールを失ってしまうとか、わずかな怒りでもそれを向けた相手が仕返しをするのではないかという恐怖心を抱いている」からです。怒りのブレーキが壊れているという感覚では共通しています。

通常このタイプの人は、怒りだけでなく、あらゆる感情が激しくて、それを抑えるブレーキが壊れているように感じています。それは彼らが痛みに対して、非常に過敏な心を持っているからです。ある専門家はこれを、全身の9割に重度の熱傷(やけど)を受けているような状態だといいます。「感情という皮膚がなく、わずかに触れたり、動いたりするだけでも、彼らは苦痛に悶えるのです」。ですから制御できなくて激しい反応が起きてしまうのです。
この敏感さは、境界性パーソナリティ障害の人が、潜在意識と同通しやすいこととも密接にかかわっています。鈍感な人であれば感じないので平気なことでも、潜在意識と同通して敏感な人にとっては、拷問なような苦しみを感じることがあるのです。心がむき出しになっていて、小さな刺激にも過敏に反応するのです。このタイプの人が、激しい猫舌であることも、しばしば見かけます。感覚も過敏であることが少なくないように思います。

②怒りの奥にある生き残り戦略…

境界性パーソナリティ障害2…主な特徴と種類

①極端な気分、感情のブレが特徴

境界性パーソナリティ障害を抱えた子どもやパートナーと一緒に生活すると、次のような経験をすることがあります。
・何のことはないごく些細な言葉で、さっきまで楽しくしていたのが、急に怒りだして手がつけられなくなる。
・少し言い過ぎた言葉、その一言でむきになり、家を飛び出してしまう。時には自殺企図へと走ったりする。
・一言注意されると、もう怒りが爆発して、手が付けられないほど暴れまる。
・冗談で言った言葉にすら、深く傷つき思いつめてふさぎ込む。
・何気ない動作が、愛情の希薄さだと責められて、唖然としてショックを受ける。
子どもやパートナーがこうした反応を繰り返すと、家族はしだいに腫れ物に触るように、顔色を常に窺いながら、機嫌を損ねるのを恐れながら暮らすようになっていきがちです。薄氷を踏むような危うさ――。家族は言いたいことを言えず、常に自分を抑えて暮らします。
こうして家族はその人に支配されているような状態に陥り、息苦しさを感じます。もちろん、ご本人にはそうした意図はありません。ご本人はどうしようもない感情・気分のブレに苦しんでいるのですが、結果的には周囲を支配しているのと変わらない状況が生まれがちです。

境界性パーソナリティ障害は、感情や気分、行動の変化があまりにも激しいという特徴があります。しかも変動の幅が大きすぎ、まったく正反対の方向へぶれたりします。
飛行機の操縦かんを動かし過ぎると、機体は激しく振動し、上下にもブレを繰り返すといいますが、同じことが心の操縦かんで起きているのです。
アメリカで作成された「DSM―Ⅳ 精神疾患の分類と診断の手引き」を見ると、境界性パーソナリティ障害の診断基準として次のような項目があります。

「顕著な気分反応性による感情不安定性」・・・(例)通常は2~3時間持続し、2~3日以上持続することはまれな、エピソード的に起こる強い深い気分、いらだたしさ、または不安。
「不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難」・・・(例)しばしばかんしゃくを起こす、いつも怒っている、取っ組み合いの喧嘩を繰り返す。