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境界性パーソナリティ障害16…「幼児の心」の支配




境界性パーソナリティ障害の人には、「大人の心」と「幼児の心」が二つながらあります。普段は大人の心で生きているのですが、強いストレスを感じると「大人の心」が「幼児の心」に入れ替わることがあります。すると「幼児の心」が本人を支配して、自己コントロールできなくなります。
 

「幼児の心」は、自分の欲求を満たしてくれると満足し、機嫌よくしているのですが、少しでもそれが損なわれると泣き叫び、不満と怒りをぶちまけます。


幼児は、母乳の出が悪いと不満で泣き叫びます。幼児にとっては、よくお乳が出るオッパイは「よいオッパイ」ですが、出ないオッパイは「悪いオッパイ」でしかありません。それがどちらも同じ母親の同じオッパイであるということなどは認識していません。その場その場の欲求を満たしてくれるかどうかが、「よい」「悪い」の基準となります。


メラリ―・クラインという精神分析医は、幼児はこうして部分部分、またその瞬間その瞬間の満足、不満で対象と結びついており、その奥に母親という全体があることを認識して関わることができないことを発見しました。


この段階の「幼児の心」にとって、自分の欲求充足を邪魔されると、これまで満たされ満足していたのに、その瞬間の不満や不快さにすべて心を奪われて、怒りを爆発させて、泣きわめきます。つまり、自分の思い通りにならない時、すべての非を「悪い」対象のせいにして、怒りを爆発させ、攻撃するのです。これが「幼児の心」です。


思春期に入って境界性パーソナリティ障害が発症した若者が、自分が欲しいものを親が制限して買ってくれないと、物を投げたり、親に悪態をついたりして、買ってもらうまで暴れまくるということがあります。これはその若者が、自分の中にある「幼児の心」に支配されている姿です。


これに対して「大人の心」とは、離乳期を超えたあたりから、しだいに発達してくる心です。


その頃から子供は、母親も一人の独立した存在で、自分の欲求を常にすべて満たしてくれるわけではないことを少しずつ理解するようになります。さらに成長すると、自分にとって都合の良い「よい母親」も、欲求を満たしてくれない「悪い母親」も、どちらも一人の同じ母親であることが理解できるようになります。そして相手の都合や気持ちにも配慮できるようになり、「良い」面も「悪い」面も両方を持った一人の人間として母親を認識し関係を持てるようになるのです。


この段階では母親に叱られたり、母親が悲しそうにしている姿を見ると、もう泣きわめいたり怒りをぶちまけたりせずに、自分のことも反省し、しょんぼりします。そして自分が我慢しなければならないことも理解できます。これがここで言う「大人の心」です。


境界性パーソナリティ障害の人は、強いストレスがかかり「子供の心」に支配されているときは前後の見境がなくなります。自己コントロールを取り戻すためには、まず自分の中には「幼児の心」と「大人の心」の両方があり、その両方ともに自分であると認めてることが必要です。そのうえで、「幼児の心」に支配されるのがどういう時かをよく観察して、そういう時はブレーキをかけようと意識し、「大人の心」が増えていくように努力する必要があります。


幼児の心で怒りをぶつけても、何もよくならずもっと悪くなっていくということを、一つ一つの現実を検証しながら理解していくことが大切です。それがブレーキになるからです。


なかには、傷ついた幼児の心が自分の心の中にいて、その児がずっと泣き続けているのを感じている人もいます。その場合は、その児がどういう気持ちで泣いているのか、共感的に理解してあげること、そして悲しみの奥にある罪悪感や羞恥心、自己否定の気持ちなどの原因を取り除いてあげることが必要です。それがうまくいくと、その児は急速に大人に成長します。


あるクライエントは、ずっと泣き続けていた幼子が泣き止み、微笑んで、自分と手を取り合って踊ったといいました。それ以来、その児と一緒に感じていたある種の抑うつ感情は消えたそうです。


しかし、重度の境界性パーソナリティ障害の方の場合、成長の途次でいくつかのトラウマ体験があるため、その段階でまた別の問題を抱えた子供が出てきます。ゆっくりと時間をかけて、それに対応していくことが必要です。

境界性パーソナリティ障害⑰に続く


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①感情がコントロールできない

境界性パーソナリティ障害の人も私たちも、もっている感情に違いはありません。ただ違うのは、私たちより「物事を強烈に感じ、より激しい形で反応し、自分自身の感情や行動をうまくコントロールできない」ということです。
境界性パーソナリティ障害の人の怒りは激しく、予測不可能で、筋道を立てて話をしても抑えることができません。大雨の後の鉄砲水や地震や、晴れた日の雷のようなものです。現れるのと同じように、消えるのも突然です。

もう聞いているしかないほど怒りの激流となるので、相手をする人は疲れ果てて行きます。仕方がないから感情をなだめるために、境界性パーソナリティ障害の人の言うままになってコントロールされている家族があります。これは非常に多くあるケースです。この場合、家族の心の中には、出すことのできない怒りが蓄積されていくので、家庭の中の空気が非常に冷たくとげとげしいものとなりがちです。 もっとも、境界性パーソナリティ障害の人の中には、自分の怒りを全く表現することができないという正反対の問題を抱えている人もいます。怒りがないのではなく、「少しでも怒りを表したらコントロールを失ってしまうとか、わずかな怒りでもそれを向けた相手が仕返しをするのではないかという恐怖心を抱いている」からです。怒りのブレーキが壊れているという感覚では共通しています。

通常このタイプの人は、怒りだけでなく、あらゆる感情が激しくて、それを抑えるブレーキが壊れているように感じています。それは彼らが痛みに対して、非常に過敏な心を持っているからです。ある専門家はこれを、全身の9割に重度の熱傷(やけど)を受けているような状態だといいます。「感情という皮膚がなく、わずかに触れたり、動いたりするだけでも、彼らは苦痛に悶えるのです」。ですから制御できなくて激しい反応が起きてしまうのです。
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②怒りの奥にある生き残り戦略…

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1.決して珍しくない症状



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そのために境界性パーソナリティ障害では、本人の苦しみが激しいだけでなく、家族やその周囲の人が振り回されてへとへとになっていくことが少なくありません。


特に境界性パーソナリティ障害への対応で難しいのは、通常の場合、その人を熱心に支えようとすればするほど、症状が悪化していくことです。親身に支えてくれる人に対して、どんどん要求をエスカレートさせたり、攻撃的で衝動的になったり、自殺の企てを繰り返すことも少なくありません。そのために親身になって支援しようとした人自身が傷つくことも多いのです。
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青年期に発症することが多いので、若い人の間では境界性パーソナリティ障害を持つ人は、大幅に割合が増えることになります。なかでも女性に多くみられ、80%をしめます。男性も20%を占めていて、性差がなくなっている現在では、男性が発症するケースも増える傾向があるようです。

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