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境界性パーソナリティ障害10…特徴(8)アイデンティティの混乱






アイデンティティの障害


境界性パーソナリティ障害の一つの特徴は「自分が何者かが分からない」という感覚です。

これは、心理学では「同一性障害」と言います。要するにアイデンティティの障害です。

アメリカ精神医学会の「精神障害の診断と統計マニュアル(DSM-IV」)には、「同一性障害:著名で持続的な不安定な自己像または自己感」とあります。


境界性パーソナリティ障害の方は、自分が何者かということについて確かな感覚を持つことができずに苦しんでいます。そのために生きることへの違和感、あるいは居場所のなさという感覚を持っているのです。


太宰治の『人間失格』は、境界性パーソナリティ障害の人が感じている生きずらさが如実に描かれているといわれますが、この作品に多くの日本の若者が惹かれています。この小説の主人公と同じような自己の否定感情に苦しみ、自己同一性の欠如に苦悩している若者が、現代の日本に相当数多くいるということでしょう。この作品の主人公は自分の存在に違和感を感じていて、「道化」を演じてわざと笑いを取りながら、自分の本心を隠して生きる主人公の心が描かれています。そしてついに人間失格という感情に押しつぶされていきます。


現代の多くの若者は、親の自慢の子供である「いい子」を演じながら、「ありのままの自分」を受け入れられないという経験を持っているといわれています。

「自分の気持ちが分からない」「自分がどうしたいのか分からない」「自分は何のために生きているのか分からない」という感覚に、多くの若者は苦しみます。これは多くの人が十代に抱く悩みですが、境界性パーソナリティ障害の人は、その苦悩がその人を根底から脅かすほど深刻なものとして体験されています。

それというのも境界性パーソナリティ障害の人は、基本的安定感や自己肯定感が乏しいからです。そこに本人の複雑な出自や、本人の主体性が軽視され続け、不当に否定的に扱われて傷つけられてきた生育の歴史が重なると、アイデンティティの障害はより深刻にならざるを得ません。そして自分が何者かが分からないという空虚さに苦しむのです。



境界性パーソナリティ障害の人のもつ「空虚感」は、こうしたアイデンティティ障害とも密接にかかわっています。


あるアメリカの精神科医はこう報告しています。


「患者は心の中が空虚で、『自分のものは何もなく』、一緒にいる人が誰かによって、自分が異なる人間になると言っています。彼らは、孤独になると、自分が何者であるかが分からなくなり、自分が存在しないかのような感覚を抱くのです。彼らが孤独を回避しようとして、気違いじみた衝動的な努力をしたり、パニックに陥ったり、ひどい倦怠感、解離状態に陥ることも、これである程度説明できます。」


境界性パーソナリティ障害で苦しむある女性は、自分というものの感覚のなさに関して、こう証言しています。


「私は一緒にいる人の色に染まるっていう、カメレオンみたいな能力があるのよ。でも、これは、他人よりも自分を騙(だま)すためのものね。自分がなりたい人物になる時は、ほとんど意識していないのよ。あまりにもその状態が長く続くから、本当の自分のことがちっとも分らないの。現実感がないのよ。」

人は誰かの役に立っている実感をもつことで、自分が抱えた空虚感からのがれることができます。


境界性パーソナリティ障害の人は、介護やカウンセラーなどの援助者、世話焼きの役割を好むことが少なくないのですが、それは空虚感を乗り越えるつながりの感覚や、自己肯定感を与えてもらえるからだと思います。

境界性パーソナリティ障害に苦しんだ人は、人間心理の洞察力が優れており、人の心の苦しみやして欲しいことに敏感に気がつくという才能を発達させています。こうした才能を持つ人にとって、介護職やカウンセラーのような建設的な役割は、彼らにアイデンティティを与え、彼らの自己統制感を高めてくれます。

それは、心をむしばむ空虚感を和らげてくれるため、そこでは彼らは生き生きと働くことができるのです。何と言っても、人の苦しみや求めに敏感に対応できる力は、得難いものです。時々怒りが爆発するという不安定さを克服できると、援助職における素晴らしい才能の持ち主として活躍できると思います。

境界性パーソナリティ障害11に続く。

http://tanemura2013.blogspot.jp/2015/02/11.html



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境界性パーソナリティ障害1…愛情飢餓の苦しみを抱えて

1.決して珍しくない症状



境界性パーソナリティ障害は、最近増えつつあるのですが、対人関係が難しいという特徴があるので、大変厄介です。リストカットを繰り返したり、自殺の企てを何度もしたり、摂食障害で拒食症や過食症に悩んだり、家庭内での親への暴力、援助交際などの性的逸脱などなど、こうした激しい行動の背景には、往々にして境界性パーソナリティ障害が潜んでいます。これに薬物への依存が加わることもあります。
そのために境界性パーソナリティ障害では、本人の苦しみが激しいだけでなく、家族やその周囲の人が振り回されてへとへとになっていくことが少なくありません。


特に境界性パーソナリティ障害への対応で難しいのは、通常の場合、その人を熱心に支えようとすればするほど、症状が悪化していくことです。親身に支えてくれる人に対して、どんどん要求をエスカレートさせたり、攻撃的で衝動的になったり、自殺の企てを繰り返すことも少なくありません。そのために親身になって支援しようとした人自身が傷つくことも多いのです。
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境界性パーソナリティ障害7…特徴(4)怒りのブレーキが効かない

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この敏感さは、境界性パーソナリティ障害の人が、潜在意識と同通しやすいこととも密接にかかわっています。鈍感な人であれば感じないので平気なことでも、潜在意識と同通して敏感な人にとっては、拷問なような苦しみを感じることがあるのです。心がむき出しになっていて、小さな刺激にも過敏に反応するのです。このタイプの人が、激しい猫舌であることも、しばしば見かけます。感覚も過敏であることが少なくないように思います。

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・何のことはないごく些細な言葉で、さっきまで楽しくしていたのが、急に怒りだして手がつけられなくなる。
・少し言い過ぎた言葉、その一言でむきになり、家を飛び出してしまう。時には自殺企図へと走ったりする。
・一言注意されると、もう怒りが爆発して、手が付けられないほど暴れまる。
・冗談で言った言葉にすら、深く傷つき思いつめてふさぎ込む。
・何気ない動作が、愛情の希薄さだと責められて、唖然としてショックを受ける。
子どもやパートナーがこうした反応を繰り返すと、家族はしだいに腫れ物に触るように、顔色を常に窺いながら、機嫌を損ねるのを恐れながら暮らすようになっていきがちです。薄氷を踏むような危うさ――。家族は言いたいことを言えず、常に自分を抑えて暮らします。
こうして家族はその人に支配されているような状態に陥り、息苦しさを感じます。もちろん、ご本人にはそうした意図はありません。ご本人はどうしようもない感情・気分のブレに苦しんでいるのですが、結果的には周囲を支配しているのと変わらない状況が生まれがちです。

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飛行機の操縦かんを動かし過ぎると、機体は激しく振動し、上下にもブレを繰り返すといいますが、同じことが心の操縦かんで起きているのです。
アメリカで作成された「DSM―Ⅳ 精神疾患の分類と診断の手引き」を見ると、境界性パーソナリティ障害の診断基準として次のような項目があります。

「顕著な気分反応性による感情不安定性」・・・(例)通常は2~3時間持続し、2~3日以上持続することはまれな、エピソード的に起こる強い深い気分、いらだたしさ、または不安。
「不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難」・・・(例)しばしばかんしゃくを起こす、いつも怒っている、取っ組み合いの喧嘩を繰り返す。