① 丹田呼吸法
呼吸法というのは、超越心理学(トランスパーソナル心理学)においては、基幹となるものです。心と体を整えるうえでの基礎だからです。
呼吸で最も基本とするべきは丹田呼吸です。下腹部に腹圧を加えて丹田を動かしながら深い呼吸をするのが丹田呼吸です。釈尊が生涯実践された呼吸法であるアナパーナサチはこの丹田呼吸のことで、吐く息を長くし、吸う時には力を緩めて自然に息が入るに任せます。白隠禅師が禅病にかかり進退窮まった時に、師に教わって健康を回復し、その後の悟りを進めたのも、この呼吸法の実践をしたからです。
丹田呼吸法というのは、体と心の健康の基礎になるものです。呼吸法には西洋と東洋で違いがありますが、呼吸法が心身の健康にとって重要であるというのは、西洋でも同じです。たとえば米国の代替医療の権威であるアンドルー・ワイル博士が自著の中で様々な健康法を紹介した後、「もしたった一つ健康法を選ぶなら、私は呼吸法をすすめる」と述べていることでもわかります。不思議なことに西欧の呼吸法では丹田呼吸法があまり説かれなかったのですが、近年は禅や上座部仏教などが米国にも広がり、マインドフルネス瞑想法という名前で禅的もしくは仏教的な瞑想法が普及し、そこでは丹田呼吸が指導されているようです。
② 丹田呼吸の身体への効用
丹田呼吸の効用について、体と心の両面から説明したいと思います。
丹田呼吸法をすると、まず下腹部から大量の血液が心臓へと送り込まれ、全身の血流が増大します。必然的に脳の血流も増加するため、頭の働きがさえてきます。また全身の血行が良くなるので、全身の細胞に新鮮な血液が多く運ばれ、新陳代謝が高まります。座って生活する現代人は、血流が滞りがちで、全身の細胞が弱まり高血圧にもなりやすいのですが、それが解消できるので血圧は安定します。また体温も上昇しますので、冷え性の対策にもなります。
第二に丹田呼吸を繰り返すと、横隔膜が肺の空気を大量に押し出し、その分新鮮な空気が肺に取り込まれるため、新鮮な酸素が大量に肺に補給されるのです。その結果、血液に膨大な酸素が取り込まれて、全身に送られます。すると全身の細胞は二酸化炭素を排出し酸素を取り込みます。癌は血流が滞ったり、血中に酸素が欠乏すると起きやすいことが知られていますので、丹田呼吸を実践すると癌予防にもなるわけです。
新鮮な酸素をふくんだ血流が全身を巡ることで、全身の細胞が生き生きとし、また脳が活発に働き出す。これが丹田呼吸で健康が増進する理由です。
③ 丹田呼吸の心への効用
次に丹田呼吸が心の面に及ぼす影響を述べます。丹田呼吸は呼気を長く時間をかけて行い、吸気を短く行います。吐く息(呼気)が吸う息(吸気)よりも長くなると、副交感神経が優位の状態に自動的に切り替わります。副交感神経が優位の状態とは、リラックスした状態になるということです。この状態が続くと、表面意識の働きが抑制され潜在意識との交流ができやすくなります。ベーター波からアルファー波、さらにはシーター波へと切り替わるのです。瞑想で呼吸法が重視されるのは、この作用があるからです。
また丹田呼吸法を続けると、脳内物質としてセレトニンが分泌されることが知られています。セレトニンとは心を安定させ、平安な気持ちにさせる働きを持つ物質です。ストレスを軽減するには不可欠の脳内物質です。つまり丹田呼吸法には、心を平静に安定させ、ストレスを軽減する効果があるのです。
さらに集中力が増大します。これは脳内の血流が増大していることとも関係すると思われますが、精神集中力が増すので、智慧を得たり、仕事の能率を上げるには、非常に大きな効果があるのです。
丹田呼吸法は、それがすすんでアナパーナサチと呼ばれる呼吸法になると、心の雑念が止まり、物事を深く観察できるようになり、智慧の目を開きます。潜在意識との交流が伴うので、深い智慧が湧いてくるようになるのです。
近代日本にこの呼吸法を本格的に実践し普及させたのは、社団法人調和道協会会長の藤田霊斎氏ですが、それを引き継いだ村木弘昌医学博士が『釈尊の呼吸法』『白隠の丹田呼吸法』などの良書を著して啓蒙されています。医療や教育界でも、当代一流の人により丹田呼吸法が紹介され効果を上げています。私は心理療法には丹田呼吸は欠かせないと思いますが、そうしたものと無縁の人でも、心身の健康増進に丹田呼吸法を実践されることをお勧めします。(種村)
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